どう考えたって夏がいいに決まってる

夏が好きだ。
誰になんと言われようとも、僕は夏が大好きだ。

夏がやってくる度に僕は両腕を天に伸ばし、口元からヨダレを撒き散らし、白目を剥いて狂喜乱舞する。
それほどまでに、夏が好きで好きでどうしようもないのだ。

燦々と輝く太陽。
生い茂る木々。
やかましい蝉の声。

虫取り網を持って森に消えていく少年たち。
神社で開催される祭りに浮き足立つ青年。
縁側で鳴り響く風鈴の音に、眠気を誘われる昼下がり。

どこを切り取っても夏という季節は素晴らしい。
夏はいつだって僕の心をくすぐり、少年に戻してくれるのだ。





ところで、アナタは夏派、冬派のどちらだろうか。





冬派と答えたそこのアナタ。
今すぐにブラウザバックしてほしい。
いや、今すぐここから出ていけ。

僕とアナタでは全く馬が合いそうにない。

アナタがこれ以上この画面を覗き込んでこようものなら、僕は我慢ならずにアッパーを決めてしまうほど馬が合いそうにない。
もしアナタが手を差し伸べてきたら、その手を往復で叩くほどに合わないだろう。

アナタが良いと言うもの全てにバツ印を叩きつけるし、アナタとデートをすることがあったら間違いなく牧場に行く。
そこでアナタに乳搾りをさせ糞を掻き出させる中、僕は優雅に乗馬体験をするだろう。

それほどまでに、僕は「冬が好き」と言う人間が理解できないのだ。



個人的に大学でアンケートを取った。



「アナタは夏派、冬派のどちらですか?」
10人が回答してくれたのだが、なんとその全員が「冬派」に票を入れたのだ。

この真実を知った時、世界がたちまち歪み暗転し始めた。
大地はまるでスライムのようにどろりと柔らかくなり、両足はみるみるうちに地中深く飲み込まれていく。
まさに「ぐにゃあ」である。



なぜだ、なぜなのだ。
どうして夏ではなく冬が好きなのだ。

冬好きをどうにかして屈服させたい僕は、イマジナリーフレンドを創造し、そいつを椅子に縛り問いただしてみた。ここでは仮に山田としておこう。
初めに、なぜ冬が好きなのかを問うてみた。

山田「えー、だって夏みたいに汗掻かないじゃーん」



俺は山田の頬を引っ叩いた。

ふざけるな。何が「汗掻かない」だ。
アンケートを取った時も似たようなことを言う輩が多かったが、そもそも「汗を掻かないから好き」というのは、冬が好きであるという答えになっていない。

消去法なのだ。

前提として汗を掻くことが嫌いであり、汗を掻くことが逃れられる季節がたまたま冬だっただけだ。
別に冬である必要はない。

冬好きはこぞって「夏はホニャララだから冬が好き」と、自分から「私は消去法で好きな季節を選んでいます」と公言する。
単に気温が低ければいいのだから、冬が好きと言うのではなく「寒いのが好き」と言って氷をアホみたいにバリボリ食っていればいいのだ。
それをわざわざ夏を引き合いに出して愚弄するなど、不愉快この上ない。



情けなく倒れた山田を起こし、再びなぜ冬が好きなのかを問うてみた。

山田「虫!気持ち悪い虫がいないじゃn



俺は山田の歯を引っこ抜いた。
もう一度聞こう、なぜお前は冬が好きなのだ。

山田「え、えと...食べ物が美味しいじゃーん」
山田「鍋とか!鍋って夏には暑くてとても食べられないじゃーん」
山田「だからボクは冬が好き!」



俺は赤く腫れ上がった山田の左頬を強く引っ叩いた。

違う、お前は冬が好きなのではない。
ただ寒いのが好きなだけだ。
さっきから聞いていれば、やれ汗を掻かないだの、虫が出ないだの、食べ物が美味いだのと抜かしやがって。

その全てが「寒いから」だ。
寒いから汗を掻かないし、寒いから虫が出ないし、寒いから温かい食べ物が美味しく感じる。

そう、お前は寒ければなんでもいいのだ。
たとえその季節の名前が「フェニックス」でも「地獄の業火」でも「プロメテウス」だったとしても、寒ければなんだっていいと考えているのだ。


これを冬好きだと本当に言えるのだろうか?



ワナワナと怒りで震える体をどうにかして抑え込み、僕は必要以上にゆっくりとしたスピードでもう一度山田に質問した。

僕「な、なぜ...なぜ、山田は冬が好きなんだ」
山田「だってさー、冬って着込めばさー、暖かくなるけどさー」
山田「夏は脱げる服に限界があるじゃーん。だからボクは冬g



俺は風船のように腫れ上がった山田の左頬を渾身の一撃で殴った。
辺りにけたたましい破裂音が響く。

もうその答えには飽きた。
その「冬は服を着れば大丈夫だけど夏は限界がある理論」には、ほとほとうんざりしている。

それに、だったらなんだと言うのだ。
冬は夏と比べて着込めば大丈夫だったら、冬が好きなのか?
なんだその理由は。意味が全くわからない。

「ウェーイwwwww夏って脱げる服に限界あるの?wwwww」
「冬はwww着www込wwwめwwwばwww大www丈www夫www」

お前を雪だるまにしてやろうか。
冬が好きなのではなく、着込むのが好きなだけだろう。
そんなに好きだったら南極にでも行ってこい。


そう、この理論は冬派が夏派を鎮める際に用いられることが多いようだが、これもまた「冬が好きである」という理由から逸脱しているのだ。



そろそろこちらから攻撃してもいいだろうか。
いかに冬という季節がクソであるかという理由を。



まず、冬は体温調節が非常に面倒臭い。
外が寒いので何重にも服を重ねて体を温めるが、基本的に建物の中はどこも温暖で温かい。いや暖かすぎるのだ。
それゆえに、屋内でコートやマフラーを着衣したままだと暑くてかなわないので、いちいち服を脱いで椅子にかけたり籠の中に入れたりする。

この作業がまぁかったるいのだが、そうせざるを得ない。
だって”冬”だからな。

用が済み再び外へ出れば、今度は一気に冷気が身を包む。
これでは体の芯から冷え切ってしまうので、がさばるコートに袖を通し、無駄に長いマフラーを首に巻き付ける。

こんな面倒な作業を1日の間に何度も何度も繰り返すのだ。
ああ、やっぱり冬ってクソだ。



地獄の冬はまだまだ僕を苦しめる。
冬は寒いだけでなく、「乾燥」
しているのだ。

乾燥するとどうなるか。
手や指先はひび割れ、風邪やウイルスが蔓延り、マスクの中がビッチョビチョに結露する。
ひび割れないように毎日ハンドクリームを塗りたくり、風邪や喉を痛めないために加湿器を使い、マスクの替えを何枚も持ち歩く。

この作業も毎日繰り返すとなると非常に面倒臭いが、そうせざるを得ない。
だって”冬”だからな。



空気が澄んでる?鍋が美味しい?
ではそのメリットの影に、どれだけのデメリットがあるか列挙してあげよう。



・寒い
・服が多くて動きにくい
・荷物が多い
・外に出るのが面倒
・手や指先がひび割れる
・マスクが結露する
・風邪などの体調不良になりやすい
・布団から出られない
・朝起きると乾燥で喉が痛くなる
・光熱費がアホほどかかる
・裸足で家の中をうろつけない
・電車の中が信じられないくらい暑い
・出先の便座に座る時に軽いギャンブルになる



どう考えたって夏がいいに決まってる。