「よく噛むこと」を習慣にしてみる

僕は異常なほど早食いだ。

 

友人とご飯を食べに行くと必ず「早っ」と言われるし、特にラーメンなどの麺類を食べる時は早食いのスキルが如実に現れ、若干引かれるくらいには早く食事を済ませてしまうのだ。

 

しかしながら日本において早食いであることは、そこまでデメリットにならない。

1分1秒を忙しなく生きる現代の日本人にとって食事とは愉しむものではなく、栄養摂取という作業に過ぎないのだ。

 

つまるところ、早く食べれば食べるだけ余った時間を有効活用できる。最近ではサプリや栄養剤なので食事をよりファストに済ます人もいるくらいだし、食事というものの娯楽性は軽視されつつある。

 

なので僕は自分が早食いであることを負い目に感じるどころか、むしろ特技と捉えて日々を過ごしていた。

だが、よく噛むことは健康上とてもメリットがあることも理解している。

 

「よく噛んで食べましょう」

 

このフレーズは耳にタコができるほど聞いてきた。

そんなことは分かっている。分かってはいるが、ロクに咀嚼せず飲み込む方が飯を美味く食えるのだ。

だから僕は咀嚼するのをやめたのだ。固形を固形のまま飲み込む快楽に溺れていた。

 

 

 

しかし、今日はふと「よく噛むこと」を試したくなった。理由は特になく、何となくしてみようかな程度にやってみた。

 

さっき作った照り焼きチキンとご飯をいつものように口に放り込み、咀嚼を意識してよく噛んでみる。いつもなら5噛みくらいで飲み込んでいるような気がするが、10回、15回と回数を重ねていく。

油断すると喉が勝手に食物を胃に流し込もうとするので、それを抑えつつ咀嚼。少しずつ唾液が口内を満たし始め、固形であったチキンとご飯はドロドロとした流動食のようになっていった。

 

これがかなり気持ち悪い感触なのだ。

唾液と混ざり合ってグジュグジュとした食感に変化し、言葉を選ばずに言えばゲロの食感なのだ。早く飲み込んでしまいたい。

しかし我慢だ。固形を完全にドロドロの液体にするまで咀嚼を続ける。

 

どれくらい噛んだだろうか。口内はスムージーのような状態になっていて、もう何が何だかわからない状態になっている。

そろそろいいかと思いゴクリと飲み込むと、スルスルっと何の引っかかりもなく胃に流れ込んでいるような感触が伝わってくる。少し気持ちいい。

 

 

 

もう一度チキンとご飯を口に入れて咀嚼する。

先ほど同様口内はドロドロのグジュグジュになり、気持ち悪い感触で満たされる。

 

しかしながら、食べ物を噛み続けるとじんわりと甘みが滲み出てくることがわかった。

生物の授業で習ったことがある。唾液に含まれる消化酵素はブドウ糖に変化させる性質があり、このブドウ糖こそが甘みなんだと。

 

へぇ、お米ってこんなに甘いんだ。チキンって噛むとこんなに旨味があるんだと、一噛みごとに新たな発見があって面白い。

気づけば何十噛みもしており、スムージーが完成していた。

 

 

 

それからも一口一口をよく噛み続け、食事が終わった時には30分以上も経っていた。

量自体はそこまで多くはなかったのだがとても満腹感があり、食後の抗い難い眠気もちっともない。

それどころか体がポカポカと温かく、頭もスッキリしているような感覚だ。

最初は気持ち悪い感触だったあのドロドロ感も慣れれば全然苦ではなくなり、むしろ混ざり合った食物の美味しさを味わいたいと思うようになっていた。

 

 

 

おいおい、「よく噛むこと」ってこんなに楽しいことなのか。

食べ過ぎ防止になり、代謝が上がることで太りにくくなり、胃腸が健康になり、頭も冴え、小顔効果や美肌効果もあるらしい。

 

メリットありすぎだろ。

決めた。今日から「よく噛むこと」を習慣にしてみる。