逆に頭以外の選択肢を教えてほしい。
この質問の愚問たるや聞いて呆れる。
頭以外から洗う人は効率ってものを知らないのだろうか。風呂初学者なのだろうか。何十年と生きてきて、未だに自分の最適解を発見していない相当な阿呆なのだろうか。
だとしたら、これは現代社会の抱える闇である。
生成AI、IoT、自動運転など、時代が進むにつれてこの世は物事をより効率良く快適にするために、様々な角度からアプローチしようと日々探求し模索する。
もちろん技術革新だけに限った話ではなく、人々は仕事や日々の生活においても自分なりの効率を求めて、少しずつ生産性を上げる努力を無意識化の中で行うものだ。
それがなんだ。
多くの人が毎日こなさなくてはならないタスクの一つに設定しているであろう「風呂」に、頭以外から洗うという選択を取ってしまう愚かさ。未熟さ。哀れさ。
幼少期に何か特別な思想を植え付けられているに違いない。頭から洗ったら肉親から勘当でもさせられるのだろうか。
僕は頭以外から洗う人間のことを「あちら側の住人」と呼んでいる。
ヤツらとは住んでいる世界が違うのだ。同じ人間の形をしているが、中身はエイリアン。きっとヤツらは食事をする時は真っ先に白飯から食べ、歯を磨く時は犬歯の裏側から磨くような変人であると確信している。
頭から洗う上での利点というのは数え挙げたらキリがない。
まず第一に効率性である。あちら側の住人に問う。重力とはご存じだろうか。
物体が地球に引っ張られ、上から下に力が加わることを重力と呼ぶ。風呂でいうと、泡や汚れがこれに該当する。
つまり頭から洗うことにより、上から下へ体を無駄なく確実に綺麗にすることができ、またシャワーの水も無駄にならない。
タイムイズマネーとよく言うが、風呂において頭から洗う行為はまさにこの言葉を体現しているのだ。しかも環境に優しい。SDGsに配慮した素晴らしく徳の高い行いである。
そして第二に快適性である。
風呂において、頭や体を洗うことに快楽を覚える人間などいない。洗わなければ歩く公害だのと罵られ、後ろ指を指されてしまうがために仕方なく行う人が大半だろう。
ならば風呂における快楽、いわばメインディッシュとは何か。それは湯船に浸かることだと僕は思う。
湯船に浸かり、何も考えずにヨダレを垂らすあの時間こそが、風呂における唯一であり最高の快楽である。
ならばその前後にある体を洗う面倒と風呂から出た後に体を拭く面倒は、なるべく短時間で済ませたいと思うのが常だ。
そこで頭から洗えばどうだ。男性であるならば時間経過と共に髪は風呂の中であっても少しずつ乾燥を始め、風呂から出た後の虚無の時間を幾分か短縮することができる。
頭を拭くというのは体を拭くことよりも面倒だし時間もかかる。だからこそ、頭から洗うことにこれ以上ないメリットがあるのだ。
さて、もう一度問おう。
なぜ頭以外から洗うのだ。
頭以外から洗うことの有効性について説明してもらいたい。
時間にもお金にも環境にも快適性にも軍配のある「頭から洗う」ことへの反論として、一体何が挙げられるだろうか。
ないだろう。ないのだ。絶対に。
心理テストなどで、「どこから最初に洗いますか？」という問いかけを目の当たりにしたことがある。
体から洗う人はピュアな性格だの無条件に愛されたいだのと言われていたが、正しい答えはそうではない。こうである。
【Q】どこから最初に洗いますか？
◎頭を選んだそこのアナタ！
→アナタはちょっぴり寂しがりやかも？包容力のある人との相性がバツグンだヨ！
◎それ以外を選んだそこのアナタ！
→アナタは人外！本心理テストでは人間をベースに作成されているので、『アナタの心を暴いちゃう☆ 〜人外版〜』をお買い求め下さい。
こうなのだ。そもそも人ではないのだから心理の判別のしようがない。
もし皆さんの友人や家族に、頭以外から洗う人がいたら気をつけてください。
何かしらのヤバい思想を持っている場合や、未確認生命体がすでに脳を寄生している可能性が大いにあります。
怪しい宗教団体への加入、人中を中心に放射状に皮膚が裂け、触手が蠢くエイリアンへと変貌する恐れがありますので、見かけ次第お近くの警察署へ駆け込んでください。
ーーー自分の命を守れるのは、自分だけだ。
【あとがき】
メンズメイクを少しだけ始めるようになって、クレンジングの兼ね合いもあって最初に顔を洗うようになりました。これって僕、”あちら側の住人”になってないですよね...？
