この世で一番嫌いなモノ

は間違いなく柚子である。

ボコボコと醜く凹凸し、便座の裏側のように黄ばんだ果実。

表面はまるで潤いがなく、思春期の野球少年のような肌荒れ加減。

 

まごうことなきブスである。

世のアンチルッキズムたちも「流石にこれは」と失笑するほどのブスだ。

果実界、いや食物界の頂点に立つブスである。

 

コイツが目に入るたび、僕は眉をクッと顰め目を細め、ギリギリと歯軋りを始める。

この世のあらゆる食べ物の中で群を抜いてふざけた食べ物、それが柚子である。

なんなのだ、柚子という食べ物は。いい加減にしてくれ。

 

 

 

えー、まず前提としてハッキリさせなくてはいけないのだが、柚子は存在そのものが脇役なのだ。

柚子は主役になれるポテンシャルなどない。あるはずもない。

 

ドラえもんでいうところのスネ夫、ちびまる子ちゃんでいうところの藤木と永沢だ。

スネ夫と藤木と永沢を足して3で割れば、あっという間に柚子の出来上がりである。

 

スネ夫のゴマすり、藤木のネガティブ、永沢の陰湿。

柚子はこれらの特徴を兼ね備えており、権威を持った者の後ろに金魚の糞のように張り付き、すり鉢が燃えんばかりにゴマをすりへつらうのだ。

その姑息で下劣な感じが実に鼻につく。

 

鍋、茶碗蒸し、お吸い物。

これらの素晴らしい食べ物に、我が物顔でベチャっと擦り寄るのが柚子だ。

本当に等が悪い、悪すぎる。到底許されるべきではない。

 

 

 

さらに特筆すべきなのが、柚子は脇役の分際であるのにも関わらず、その主張が激しすぎるのだ。

柚子の皮を1mmでも料理に添えたらどうだ。

 

それはもう”柚子”である。

ひとたび鍋に浮かべたら、それがチゲであろうが味噌であろうが、柚子になるのだ。

 

これが三つ星のシェフが全力で腕を振るって作り上げた、寸分狂わぬアートのような料理に悪戯心で添えたらどうだ。

そのアートはジェンガのようにボロボロと崩壊し、シェフの星は即座に没収され路頭に迷うこと間違いなしである。

 

蛇足なんて生優しい言葉では済まされない。

蛇をメデューサにするくらい余計過ぎる付け足しである。

 

 

 

つまり、コイツの一片が料理の中に入ろうものなら全てがダメになってしまうのだ。

それほどまでに柚子は匂いが強烈すぎる。

恐らくシュールストレミングと同等の強さであると僕はニラんでいる。

 

 

 

集団生活の注意喚起をする上でよく例えられるものの1つとして、「腐ったミカン」が挙げられる。

箱の中に腐ったミカンが1つでもあると、他のミカンにまで影響を及ぼし腐敗させてしまうというものだが、柚子に関してはリアルにそれが起こる。

 

しかも柚子の場合、腐敗しているかどうかは問わない。

さらに言えば、周囲にある食べ物は柚子でなくとも腐敗は進む。

そして腐敗のスピードは音をも越える。嗚呼、なんて恐ろしいんだ。

 

万物の食物を腐敗させる悪魔の果実YUZU。

ワンピースに登場してもなんら不思議なことではない。

 

 

 

 

 

さて、ここまで柚子をボッコボコに批判すると、柚子農家ならびに柚子愛好家が血眼で憤慨することだろう。

しかし言わせてほしい。僕は柚子そのものが嫌いなのではない。

 

矛盾しているように聞こえるかもしれないが、むしろ柚子は好きな方だ。

冬至の時になると決まって柚子を風呂に浸けてその香りに酔いしれるだけでなく、入浴剤も柚子を選ぶほどの柚子好きである。

 

 

 

柚子レモン、いいじゃないか。

ほっとでも、つめた〜いでも美味しくいただける。

 

 

 

 

柚子ジャム、どんどんいこう。

 

 

 

 

 

柚子シャーベット、さわやかで美味しそうである。

書いてみて思ったが、デザート系ならば主役の仕事があるではないか。

そこは謝罪しなければいけない、ゴメン柚子。

 

 

 

 

 

ポテトサラダon the YUZU、あまり俺をナメるな。

ふざけているのか?だからなぜ蛇をメデューサにするのだ。

 

 

 

 

 

柚子に対してつくづく思うのだが、なぜ問答無用で料理に入るのだろうか。

料理に柚子が入っていることが嫌いな人がいるかもしれないという思慮が、オマエにはないのか?

二つの意味で実に面の皮の厚いヤツだ。

 

柑橘系というのはどうしても匂いが際立つ。

さわやかな香りなのは結構だが、それが料理に入った時好き嫌いが分かれるのは致し方ないことだ。

だが柚子は我が物顔で料理に入る。これが僕はどうしても許せないのだ。

 

 

 

柚子の野郎はレモンを見習ってほしい。

唐揚げの横に鮮やかに配置されたレモンは、唐揚げ本体には一滴もかかっていない状態で提供される。

そう、これはレモンの果汁が唐揚げにかかることを拒絶する人間がいるという暗示に他ならない。

 

我々は添えられたレモンを前に、「レモンかけちゃってもいい?」と一声かける義務が生じるのだ。

場合によっては幹事長が口頭ではなく書面での契約を交わすこともある。

ここでフライングしてレモンを射出「フライング・レモン・インジェクション」をしようものなら、光の速さで両腕をもがれてしまうのだ。

 

周囲の合意を得た後に、初めてレモンを絞ることが許されるのである。

料理に柑橘系の果物を入れるというのは法に抵触するスレスレの行為であり、だからこそこれほどまでに厳格な手続きを踏む必要があるのだ。

 

 

 

 

 

それを、なんだ。

 

 

 

 

 

柚子は、なんだなんだ。

 

 

 

 

 

我々の許可もなく、入るだと?

 

 

 

 

 

よし、柚子を確認無しに入れても良いという常識をこの世から消してしまおう。